動悸とは?
動悸とは、ドクドク、ドンドン、トクトクといった心臓の拍動が自覚される症状を指します。通常、安静時には動悸は自覚できませんが、運動をしたり、緊張をした時などは、健康な人でも動悸を感じることがあります。動悸の原因は多岐にわたり、胸の痛みや不快感、息切れなどの症状を伴うこともあります。もし、短い階段や坂道を登る、平地を歩くだけでも動悸がする、または安静時にも動悸を感じる場合には、心臓や循環器系の疾患が潜んでいる可能性があります。このような場合は、何らかの病気のサインとしてお早めに当院にご相談ください。
動悸の種類
動悸は、心拍数が速くなる「頻脈」の場合によく見られる症状だと思われがちですが、心拍数が遅くなる「徐脈」や、脈が飛んだり不規則になる「期外収縮」や「心房細動」でも動悸が現れることがあります。これらの異常な心拍のリズムも、動悸として自覚されることが多いです。
心拍数が速くなる頻脈
発作性上室性頻拍症
突然心拍数が速くなり、数分から数時間後に元に戻る症状です。発作が起こると、動悸が激しくなり、心臓に大きな負担がかかります。このため、動悸が激しい場合は、すぐに受診することが必要です。一方、動悸が軽微であり、発作がすぐに収まった場合でも、一度相談することをお勧めします。発作が再発したり、将来的に心臓に影響を与える可能性があるため、早期に適切な対処をすることが大切です。
心室頻拍
心室頻拍は、心臓の下側の部屋である心室に異常が生じて起こる頻脈です。この状態は、心室が異常に早く拍動するため、心臓の正常なポンプ機能が損なわれ、血液循環がうまくいかなくなります。もし心室頻拍が30秒以上続き、血圧の低下が見られる場合は、心臓に深刻な負担がかかっている可能性があるため、すぐに受診することが重要です。また、心室頻拍は心室細動などの致死性の不整脈を引き起こすことがあり、放置すると生命に関わる場合もあるため、早急な対応が必要です。
心拍数が遅くなる徐脈
洞不全症候群
洞不全症候群は、心臓のペースメーカーである洞結節の働きが低下することにより、脈拍が遅くなり、全身への血液供給が不足することから動悸、めまい、ふらつき、失神などの症状が引き起こされます。この病状は、症状が軽度である場合、自覚症状がほとんどなく、健康診断や心電図などで初めて気づくというケースも少なくありません。
房室ブロック
房室ブロックは、心房と心室の間で電気信号を伝達する役割を持つ房室結節の機能が低下することによって、徐脈を引き起こす病気です。徐脈が進行すると、血液循環が十分に行われなくなり、動悸やめまい、失神などの症状が現れることがあります。
特に、心臓に持病がある方が房室ブロックを起こした場合には、心臓への負担が大きくなるため、すぐに受診することが必要です。また、薬の副作用が原因となって房室ブロックが起こることもあるため、服用中の薬を確認し、医師に相談することが重要です。
脈が飛ぶ・不規則になる
期外収縮
期外収縮は、正常な心拍リズムの中に、時折早い脈が混じる状態を指します。これが起こると、通常のリズムに乱れが生じ、動悸を感じることがあります。ほとんどのケースでは、特に問題なく、健康な人でも起こることがありますが、心臓疾患が原因で期外収縮が発生している場合もあります。そのため、症状が気になる場合や頻繁に起こる場合は、循環器内科で詳しく調べてもらうことが大切です。
心房細動
心房細動は、心房が正常なリズムで収縮せず、震えるように不規則に動く状態です。このため、心臓のポンプ機能が低下し、血液が効率よく循環しません。その結果、動悸、脱力感、めまいなどの症状を伴うことがあります。心房細動が発生すると、心房内に血液が滞留しやすくなり、血栓が形成されるリスクが高まります。この血栓が脳に流れると、脳梗塞を引き起こす危険があるため、心房細動が疑われる場合は、速やかな受診が必要です。早期の診断と治療により、合併症の予防や改善が可能です。
動悸がする原因
脈が飛ぶ・不規則になる
心不全
狭心症・心筋梗塞・心臓弁膜症・不整脈などの病気を原因として、心臓のポンプ機能が低下している状態です。動悸や息切れ、疲れやすさ、むくみなどの症状を伴います。適切な治療を行わず放置していると、最悪の場合には命を落とします。
心臓弁膜症
心臓内の弁に障害が生じることで、血液の流れに問題が発生する病気です。これにより、血液が全身に十分に送られなくなったり、心臓内で血液が逆流してしまうことがあります。これらの問題は、心不全や不整脈の原因となり、心臓の機能をさらに低下させることがあります。心臓弁膜症の主な症状には、息切れ、動悸、むくみ、胸痛、ふらつきなどがあります。
高血圧症
高血圧症は、最高血圧が140mmHg以上、または最低血圧が90mmHg以上の場合に診断されます。ほぼ自覚症状がありませんが、血圧が非常に高くなると、たとえば最高血圧が180mmHg以上、最低血圧が120mmHg以上になると、心臓が強く拍動し、動悸を感じることがあります。
低血糖症
低血糖症は、血糖値が正常範囲を下回ることで発生し、体が自律神経を使って血糖値を正常に戻そうとします。この過程で、迷走神経反射が引き起こされることがあり、動悸、倦怠感、発汗、手の震えなどの症状が現れることがあります。
バセドウ病
この病気では、甲状腺が過剰にホルモンを分泌し、体の代謝機能が正常にコントロールできなくなります。甲状腺ホルモンの過剰によって、全身の細胞が酸素を多く必要とする状態になり、動悸、息切れ、体重減少、手の震え、発汗などの症状が現れることがあります。
気管支喘息
喘息発作時に気道が狭くなると、呼吸が困難になり、体が十分に酸素を取り込むことができません。この酸素不足を補うため、体は心拍数を増やして血液を多く送り出そうとします。この過程で心臓はより活発に拍動し、その結果として動悸を感じることになります。
慢性閉塞性肺疾患(COPD)
慢性閉塞性肺疾患(COPD)は、慢性気管支炎、肺気腫、間質性肺炎などを含む呼吸器疾患の総称です。この病気では、気道が狭くなることや肺の機能が低下することにより、息をうまく吐き出すことができなくなります。その結果、吸い込む酸素の量も減少し、全身で酸素が不足する状態になります。酸素不足を補うため、心臓は血液をより多く送り出す必要があり、これにより心臓が活発に拍動します。この心拍数の増加が動悸を引き起こす原因となります。
肺塞栓症
肺塞栓症は、主に下肢などで発生した血栓が血流に乗って肺動脈に詰まることによって引き起こされる病気です。この状態では、血液の流れが妨げられ、肺への酸素供給が不足します。酸素欠乏によって心臓はより多くの血液を送り出そうとし、心拍数が増加します。このため、動悸を感じることがあります。
更年期障害
45~55歳くらいを指す更年期には、女性ホルモンの分泌が大きく減少し、特に閉経を境に、急激に減少します。自律神経が乱れ、呼吸・拍動のコントロールが困難になることで、動悸や息切れといった症状が起こります。
貧血
貧血は、血液中の赤血球やヘモグロビンが不足する状態で、酸素を全身に十分に供給できなくなります。この血液量の不足を補うため、心臓はより速く強くポンプ機能を働かせることで酸素供給を試みます。この結果として、心臓の拍動が増加し、動悸を感じることがあります。
ストレスが引き起こす動悸
過度のストレスは交感神経を過剰に働かせ、自律神経のバランスを崩します。交感神経は身体を活動的にする神経であり、ストレスを感じると心拍数が高くなり、血圧も上昇することがあります。このような状態が慢性化すると、動悸や息切れといった症状が現れやすくなります。
食事が引き起こす動悸
食事をした後は、胃腸でしっかりと消化機能を働かせるため、血液が集中します。自律神経も影響を受け、交感神経が優位になります。たくさん食べた後などは、交感神経の働きが過剰になり、動悸を感じるということがあるようです。また、カフェイン入り飲料、アルコール、香辛料なども交感神経を優位にし、動悸を引き起こすことがあります。
動悸の症状チェック方法
動悸を感じた時には、以下の方法で具体的な症状をセルフチェックすることができます。受診の際には、これらの情報をお伝えいただくと、検査の選択・診断に役立ちます。忘れないよう、メモをとることをおすすめします。なお脈の状態は、右手の人差し指・中指・薬指の3本を、左手首のくぼみに当てて確認します。

- 動悸の始まり、終わりははっきりしていたか/ぼんやりしていたか
- 動悸が起こった時、何をしていたか(運動・飲酒・興奮・緊張・安静など)
- 脈が速いか/遅いか
- 脈が飛んだり、不規則になったりしているか
- 動悸、不整脈などの症状がどれくらいの時間続いたか
緊急性を要する動悸の症状
以下の場合には、すぐに医療機関を受診することをおすすめします。
- 頻脈が長く続いている(心拍数120回/分が10分以上続く)
- 動悸に加えて、ふらつき、めまい、胸痛、嘔吐、意識消失などの症状がある
意識消失に至った場合には、すぐに救急車を呼び、必要に応じてAEDを使用して心肺蘇生を行うことが重要です。このような症状が現れた場合、早急な対応が命を救うことにつながります。
動悸の診断・検査方法
症状、生活習慣、既往歴、服用中のお薬などについてお尋ねした上で、以下のような検査を行います。
心電図検査
不整脈や狭心症、心筋梗塞の発見に役立ちます。
24時間ホルター心電図検査
小型の心電計を装着し、普段通りに生活をしていただきながら、24時間の心電図を記録します。不整脈の回数や危険性、症状の関連性、どんな時に不整脈が出たか等を把握できます。
血液検査
貧血や甲状腺疾患の有無、電解質の状態などを調べます。
心臓エコー検査
心臓の構造・機能、弁の状態、心筋の収縮力などを観察・評価します。
動悸の治し方
薬物療法
主に頻脈に対して、異常な電気信号を抑制するための抗不整脈薬を処方します。心房細動が認められる場合には、血栓を予防するための抗凝固薬を処方することもあります。
カテーテルアブレーション
治療(経皮的カテーテル心筋焼灼術)
不整脈が発生する異常な回路を、カテーテルを使って焼灼や冷却凝固で治療します。薬物療法で効果が不十分な場合に選択されます。
生活習慣の改善
食べ過ぎ、アルコール・カフェインの摂り過ぎ、ストレスなど、動悸の原因となる因子はできる限り取り除きましょう。運動の際には、動悸を感じたら休んで深呼吸をし、動悸が治まるのを待ちましょう。少しずつであっても、継続的な運動を推奨します。具体的な運動療法については、年齢やお身体の状態などを考慮して、指導いたします。
動悸がするときの
おすすめの寝方
寝る時の体勢は人それぞれですが、年齢を重ねるにつれて、身体の右側を下にして寝る人が増えるそうです。また、慢性心不全の方は、左側を下にして寝る人が多いと言われています。その中で、左側を下にして寝ると、そうでない場合よりも心拍数が減少しやすいとの研究結果が報告されています。寝る時に動悸が起こるという方は、一度お試しください。気になる動悸がある時には、自己判断せず、当院にご相談ください。