下肢閉塞性動脈疾患とは?
足の血管の動脈硬化が進む
病気
下肢閉塞性動脈疾患とは、下肢の動脈が動脈硬化によって狭くなったり(狭窄)、詰まったり(閉塞)する病気です。足のしびれ・冷えなどの症状から始まりますが、次第に間欠性跛行、足の変色、潰瘍・壊疽といったように重症化し、適切な治療を行わなければ、最悪の場合には足の切断を余儀なくされます。また、背景に冠動脈疾患・脳血管疾患があることも多く、非常に危険性の高い病気と言えます。実際に、重症化した場合の2年生存率は50%程度となっています。症状に気づいた時、確信できなくても「もしかして」と思った時には、できるだけ早く当院にご相談ください。
下肢閉塞性動脈疾患の症状
下肢閉塞性動脈疾患では、進行の程度に応じて、以下のような症状が見られます(フォンテイン分類)。
1度… 足のしびれ・冷えなど |
下肢の血流が低下することで、足のしびれ・冷えなどが起こります。これらの症状は特に運動後によく見られます。ただ、時間が経過すると治まることも多いため、受診に至らないケースが少なくありません。 その他、脱毛、皮下脂肪の萎縮などを伴うことがあります。 |
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2度… 間欠性跛行など |
間欠性跛行とは、長く歩くと足に痛み・しびれが出て歩けなくなるものの、少し休むと歩行を再開できるという症状のことを指します。下肢閉塞性動脈疾患の7~8割に認められる、代表的な症状です。下肢閉塞性動脈疾患の場合、間欠性跛行は、片側に現れることが多くなります。 |
3度… 足の安静時の痛み、足の変色など |
運動をした時や後だけでなく、安静にしていても足に痛みが出るようになります。足を下げると痛みが軽くなるという特徴があります。この特徴から、膝から下をベッドから下げて寝るという方がおられます。 その他、足が黒く変色する、足の傷が治りにくいなどの症状を伴うこともあります。 |
4度… 潰瘍、壊疽など |
足の指の先端部分、あるいは小さな傷が潰瘍化し、さらに放置していると壊疽に至ります。血流が悪いために傷が治るどころか潰瘍・壊疽が拡大していき、適切な治療を行わなければ、最悪の場合には足の切断を余儀なくされます。 |
下肢閉塞性動脈疾患の原因
下肢閉塞性動脈疾患は、動脈硬化を原因として発症する病気です。そして、動脈硬化は、生活習慣病や喫煙などによって進行します。
糖尿病
糖尿病は、下肢閉塞性動脈硬化症の発症リスクを3~4倍に高めると言われています。
高血圧症
高血圧は、動脈硬化の重大なリスク因子です。下肢閉塞性動脈硬化症の発症リスクを、1.5~2倍、高めると言われています。
脂質異常症
LDLコレステロールや中性脂肪の値が高すぎる、HDLコレステロールの値が低すぎる状態です。下肢閉塞性動脈硬化症の発症リスクを高めます。
喫煙
喫煙者は、非喫煙者と比べて下肢閉塞性動脈硬化症の発症リスクが3~4倍になると言われています。喫煙本数と重症度が比例します。
下肢閉塞性動脈疾患の検査方法
症状、生活習慣、既往歴、服用中のお薬などについてお伺いした上で、以下のような検査を行います。
触診
足の動脈の触診を行います。脈が弱い・触れない場合、動脈の狭窄・閉塞の疑いが強くなります。
ABI検査
上腕と足首の血圧比のことを「ABI」と言います。上腕よりも足首の血圧が低い場合には、下肢閉塞性動脈硬化症を疑います。上腕よりも足首の血圧が1.3倍以上高い場合には、動脈の石灰化を疑います。
下肢閉塞性動脈疾患の治療法
下肢閉塞性動脈疾患の治療では、フォンテイン分類に基づいた重症度に応じて、治療法を選択します。
1度 | フットケアを行いながら経過観察をします。また、動脈硬化の進行予防のため、抗血小板剤などを用いた薬物療法を行うこともあります。 |
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2度 | 抗血小板剤、血管拡張薬、脂質改善薬などを用いた薬物療法、運動療法を行います。半年~1年程度の治療を行っても症状が改善しない・悪化した場合には血管内治療を検討します。血管内治療が必要と判断した場合には、提携する基幹病院をご紹介します。 |
3度・4度 | 創傷処置、血管内治療・バイパス手術、リハビリテーションなど、複合的な治療を行います。これらの治療を行わずに放置していると、足の切断を余儀なくされます。 |
下肢閉塞性動脈疾患で気をつけること
フットケアについて
下肢閉塞性動脈疾患を発症した場合、フットケアがとても重要になります。治療開始時に改めて詳しく指導いたしますが、フットケアでは主に以下のようなことに取り組みます。
保温
足の冷えは、血行をより悪化させます。日常生活中では、以下の点にお気をつけください。
室内での靴下着用は、傷を防止するという意味でも有効です。
- 室内では、靴下、スリッパを履きましょう。
- 靴下は温かいもの、締め付けないものを選びましょう。
- 夏場は、部屋の冷房の効かせ過ぎを控えましょう。
- 運動は動脈硬化の進行予防に有効ですが、足が冷える冬場は屋外での運動ではなく、室内の運動を行いましょう。
- 季節を問わず、お風呂はシャワーだけで済ませず、お湯に浸かりましょう。
清潔を保つ
下肢閉塞性動脈疾患の方は足の血行が悪くなっているため、足にできた小さな傷がなかなか治らず、感染のリスクが高くなります。そのため、足の清潔を守ることが大切です。
- お風呂では、足をしっかり洗いましょう。またお風呂から出る時は足をしっかり拭いてください。
- 深爪をしないでください。感染の原因になります。
- 足にできた魚の目、たこ、いぼは自己処理せず、必ず医師に相談してください。
血行を改善する
血行改善は、下肢閉塞性動脈疾患の進行を抑制するためにとても大切です。
- 適度な運動をする習慣を身につけましょう。間欠性跛行がある場合は、痛みが出る直前に切り上げてください。
- 質、量とも十分な睡眠をとりましょう。
- 喫煙をしている方は、禁煙をしてください。喫煙は、動脈硬化および下肢閉塞性動脈の重大なリスク因子です。
- 処方された血行を改善するお薬は、効果が現れるまで時間がかかります。用法用量を守り、正しく服用してください。
- ぜひ、毎日の足浴(足湯)をおすすめします。バケツに39~40℃くらいのお湯をため、10分程度足を浸けます。
弾性ストッキングについて
医療用弾性ストッキングは、下肢静脈瘤治療・深部静脈血栓症予防などを目的として使用されます。また、むくみ予防・改善を目的として市販の弾性ストッキングを使用されている方もいます。下肢閉塞性動脈疾患の方が弾性ストッキングを着用した場合、血流が低下し、血行障害を起こすことがあります。そのため、弾性ストッキングの使用にあたっては、慎重な判断が求められます。弾性ストッキングの種類によっては、下肢閉塞性動脈疾患が禁忌となっている場合もあります。下肢閉塞性動脈疾患の方が弾性ストッキングを使用する場合には、医師と十分に話し合い、慎重にご判断ください。また、市販の弾性ストッキングを自己判断で使用することはお控えください。