胸の痛みについて
胸痛は、私たちにとって身近な症状の1つです。「締め付けられる」「圧迫される」「焼けつくよう」「うずく」など、さまざまな言い方で表現されます。中でも激しい胸痛を伴う心筋梗塞は、命にかかわる病気です。心筋梗塞が疑われる場合には、すぐに救急車を呼ぶ必要があります。また激しい痛みでなくとも、重大な疾患が背景に隠れていることがあります。程度にかかわらず、胸の痛みを感じた時には、お早めに当院にご相談ください。なお、胸痛と併発しやすい症状としては、背中・首・顎・みぞおち・腕の痛み、吐き気、咳、呼吸困難などが挙げられます。このように複数の症状が現れている場合も、お早目にご相談ください。
胸が痛い際のチェックポイント
胸が痛むという時には、以下のポイントをチェックしておき、受診時に医師に伝えましょう。検査の選択、診断に役立ちます。
痛む場所
胸の痛みがどの部位にあるかを覚えておくことが大切です。痛みが左側、中央、右側に感じられるかによって、考えられる原因が変わります。例えば、ピンポイントで指を差せる痛みは、肋骨骨折、肋軟骨炎、肋間神経痛などが考えられます。一方で、狭心症や心筋梗塞の痛みは胸から放射状に広がる(放散痛)ことが多いため、放散痛の有無も重要な手がかりになります。
痛み方
鋭いか鈍いか、圧迫される感じか、焼け付くような感じか、ご自身の言葉で結構ですので、その痛み方を医師にお伝えください。
どんな時に痛みが出たか
運動をした時、息を吸う時など、どんなタイミングで痛みが出たか、医師にお伝えください。息を吸う時に痛むという場合には、肺や肋骨に問題があるケースが多くなります。
痛みなどの症状が続いた
時間・頻度
胸痛がどれくらい続いたか、どれくらいの頻度で起こるかといった情報は、診断を行ううえで非常に重要です。痛みの持続時間や頻度によって、どの病気が疑われるかが絞り込まれます。1日中ずっとズキズキと痛み、明らかな原因が特定できない場合には、胸痛症候群という可能性もあります。
痛みの部位別:
左・真ん中・右側の違い
左側の胸の痛み
左側の胸の痛みがある場合、まず狭心症や心筋梗塞などの心臓の病気が考えられます。これらは胸の痛みが放散することがあり、特に左胸に痛みを感じやすいです。また、心臓以外にも肋間神経痛(神経の圧迫や炎症による痛み)、胃や腸の疾患(胃酸逆流など)、胸部の筋肉痛(過度の使用や緊張による痛み)なども原因として考えられます。
真ん中の胸の痛み
逆流性食道炎、胸骨下の筋肉痛、心疾患など、さまざまな原因を疑います。逆流性食道炎は、胃酸が食道に逆流して痛みを引き起こすもので、特に前屈みになったり横になると症状が強くなることがあります。
右側の胸の痛み
肋間神経痛、帯状疱疹、肺疾患・胸膜疾患などが疑われます。胆嚢炎、胆石発作などの痛みが広がり、右胸が痛むということもあります。
胸の痛みの主な原因
胸痛がある場合、主に考えられる原因には、以下のようなものがあります。
狭心症
狭心症は、心筋に血液を供給する冠動脈が狭くなり、血流が低下する病気です。心臓に十分な酸素が供給できないことから、胸痛や胸の圧迫感が引き起こされます。症状は発作的に現れ、多くは数分以内に、長くても15分以内に治まります。
心筋梗塞
心筋梗塞とは、冠動脈が完全に詰まり、詰まった先の心筋が壊死してしまう病気です。狭心症よりも危険性・緊急性が高く、心筋梗塞が疑われる場合にはすぐに救急車を呼ぶ必要があります。突然の激しい胸痛、胸の圧迫感や締め付け感、吐き気、冷や汗、および胸から肩、顎、腕に放射状に広がる痛みなどの症状が見られます。胸痛をはじめとする症状の激しさ、そして症状が20分以上続くという点が、狭心症との違いと言えます。
大動脈解離
大動脈解離は、突然胸や背中に強い痛みを伴います。また、腹・脚などへと痛みが移動するケースもあります。大動脈は、内膜・中膜・外膜の3層に分かれており、大動脈の内膜が裂けて、中膜に血液が流れ込み、大動脈が拡大した状態が大動脈解離です。命に関わる疾患のため、大動脈解離を疑う症状があった場合には、すぐに救急車を呼んでください。
気胸
気胸は、肺が破れて空気が漏れ出す病気で、突然、胸の片側に持続的な痛みが生じます。その他には、咳や呼吸困難が見られることがあります。原因には、COPD(慢性閉塞性肺疾患)、肺がん、外傷などがあり、特に原因がない自然気胸もあります。若くて高身長、細身の人に発症しやすい傾向があります。
帯状疱疹
肋骨周辺の皮膚にピリピリとした痛みやチクチクした感覚が現れ、帯状疱疹は、幼少期に水ぼうそうにかかった時に感染した水痘・帯状疱疹ウイルスが、加齢に伴う抵抗力の低下などをきっかけに再活性化し、発症します。特に50歳ころから、発症リスクが高くなります。
肋骨骨折
肋骨をぶつけたり、交通事故に遭った時、高所から転落した時などに起こる外傷です。骨粗しょう症、がんの転移などにより、気づかないうちに病的骨折を起こしていることもあります。比較的痛む位置が明確であり、「ここが痛い」と指を差せることが多くなります。身体を反らしたり、肩を動かしたり、咳・深呼吸をした時に痛みが強くなるという特徴があります。
その他
その他、肋間神経痛、胸郭出口症候群、逆流性食道炎、肺がんの浸潤、食道破裂、乳がん・乳腺炎などを原因として、胸痛が現れることがあります。
痛みの原因が分かりにくい「胸痛症候群」
胸がチクチク・ピリピリ・ズキズキ痛むけれど、検査を行っても異常が見つからない場合に、「胸痛症候群」と診断されることがあります。
胸痛症候群は、成長期・思春期の若い女性によく見られます。ピンポイントで痛むことが多いこと、体勢を変えた時に出現・消失しやすいことなどが特徴として挙げられます。筋肉や骨格の成長が影響して現れるものとされ、月日の経過とともに自然な解消が期待できます。若い人に命にかかわる胸痛が出ることは少ないですが、自己判断はせず、必ず医師の診断を受けるようにしてください。
胸の痛みの検査と診断
症状、生活習慣、既往歴、服用中の薬などについてお伺いした上で、以下のような検査を行います。
心電図検査
狭心症や心筋梗塞、不整脈などの疾患の有無を調べます。
胸部レントゲン検査
肺炎や気胸、心不全などの疾患の有無を調べます。
心臓エコー検査
心臓の構造・機能、弁の状態、心筋の収縮力などを観察・評価します。
運動負荷心電図検査
運動時の心電図を確認し、狭心症や不整脈などの診断に役立てます。
冠動脈CT検査
冠動脈の狭窄・閉塞などの詳細を調べる場合に行われます。上記検査が必要と判断した場合は、提携する基幹病院へご紹介させていただきます。
心臓カテーテル検査
冠動脈にカテーテルを挿入し、狭窄・閉塞などを評価します。上記検査が必要と判断した場合は、提携する基幹病院へご紹介させていただきます。